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食事に行けば…

その1(視覚障害)

その2(上肢障害)

その3(ユニークフェイス)

その4(上肢障害)

その5(吃音)

その6(視覚障害)

その7(上肢障害)


その1(視覚障害)

にしても、食事、特に人前でのそれって結構難儀ですよね。
現在はほぼ全盲に近いっちゅうことで、ぼくの場合、箸やフォークがうまく目的物(?)をとらえられず、んでもってちゃんと食べられないってことがよくあります。開きなおって手で食ったりもするのですが、やっぱいつもってわけにはいかないんですよね。

たとえば、そこが小洒落たビストロで、しかも、目の前に座ってるのがかねてより意中の人で、かつ初デート…なんていうシチュエーションだともうダメです。
「ええかっこ」したくなるんですね。頭んなかじゃ、健常者のからだを前提にできあがってるテーブルマナーにしたがうことなんて全然「ええかっこ」じゃないってわかってるんですけど、心がついてかない。ガタガタブルブル緊張しつつ不器用にフォークとナイフ使っちゃいますです。んで、そういう自分がまたトホホに思えてと、もう最悪です。2度目、3度目…と慣れてくと、化けの皮自らはいでくことも、まぁできるのですが…。

あと、仕事関係の会食なんかもそうですね。精神的には上記のようなパターンの方がより緊張するんですけど、こっちはこっちで別の緊張がある。
「なんや、こいつ!? こんなやつと仕事できっか!!」と思われたくないというか。少なくともぼくの仕事の場合、実際には、んなことでビジネスがチャラになるなんてことないのはわかってるんですけど、やっぱ「一人前」のパートナーとみなされたいという欲望には抗しきれず…。親しい友人やつきあって長い恋人の前じゃ、必要とあらば平気でガシガシ手づかみで食うことできるのに。哀しきトホホくんです。

その点、インド料理はいいですねぇ。サモサもシークカバブも手でつかんでワシワシ食べてOK…というかそれが正式だし。盲人にとっちゃめっちゃバリアフリー。右手に障害のある人にはつらいかもだけど。どうしてるんでしょうね、インドやパキスタンの上肢障害者&左利きの人は?

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その2(上肢障害)

わたしの場合、食べ始めれば否応なく目に付くわけなので、そこはどうしようもありません。だから、せめてそれ以上は気を遣わせないように、手元の整理というか、皿やビンの場所を変えたりします。手があたってこぼしたりしないように。箸の持ち方、使い方は、子どもの頃練習しました。
人と一緒に食事をするとき、あまり不自由に見えないようにと言われて。

>その点、インド料理はいいですねぇ。サモサもシークカバブも手でつかんでワシワシ食べてOK…というかそれが正式だし。盲人にとっちゃめっちゃバリアフリー。

そうかあ、障害が違うと食べ物まで違ってくるんですね。 手で掴んでというのは、わたしにとってはとってもバリアフルです。 食べられないわけじゃないけど、手と口の距離を縮めてくれる道具がないと。

以前、連れて行ってもらった寿司屋でのことですけど、箸が見当たらなかったので、箸くださいと言ったら、寿司は手で食うもんだってオヤジに叱られたことがあります。一時期ありましたよね、客よりエバっている店のオヤジ。なんで金払って叱られなならんのじゃと気持ちの奥底では思ったものの、凍りつきました。

果物なんかも、グレープフルーツなどまれにスプーンで食べるものがありますが、だいたい手で直接口に運ぶので、外での食事で果物がでてきても食べません。
家族と一緒の場合は食べますけど、友人と一緒の食事でもめったに食べませんね。
ぶどうなんて最悪です。小さい一粒を口に運ぶのもたいへんなのに、そのうえもっと小さい種を出すためにもう一度手を口に運ばなくちゃならないなんて。果物大好きですが、わたしにとっては家で食べるものです。

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その3(ユニークフェイス)

食べることっすか。食べるの好きなんで、あちこち行くんですけど、僕の場合は、いかに顔の腫れがめだたないように座るか、ということを考えます。相手が意中の人だったりするととくに顔の左の腫れが目立たないように、無意識に相手の左側に座ります。
だからテーブル席よりも、カウンター席のほうが好きなんですね。個人的には。

普段でも、だれかが自分の左側にくることはとても気持ち悪いっす。自分が何をしているんだか分からなくなるような時もあります。これって、話をしていても、変化ないですね。

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その4(上肢障害)

私は数年前まで、年2回程度のペースで、ツアーの一人旅をしていました。団体の中でいつも一人で、浮いていました。食事のとき、ナイフとフォークで切れないことがあり、イタリアでは、デザートだけの日もありました。もったないことをしました。

本当に欧米人で、私のように、手が悪く片手使いの人は、どうして食べてるのかなと思います。
いつも、誰か一緒で、取り分けてもらってるのかな? それとも、私もたまに手つかみで食べたので、手つかみ? ウエイトさんに「プリーズカット!」?

結局私は、「おはし」を持参するようにようになりました。 そして、、左手は、イスラムの世界では、「不浄の手」とされているので、まだ行けてません。 観光客には、そんなには、きつくないかもしれませんが・・・。

普段は、立ち食いそばのお店で、混んでるとこぼすことが多いのが不満です。

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その5(吃音)

高校卒業して上京して学生生活してた頃を思い出しますね。
今でこそ(特に医者になってから)、自炊が多い僕ですが、当時は外食中心。
吃って言葉が出なくなるのを回避するために、食べたいものを食べないで、決まったものを注文する、という習慣が染みついてましたね。

これで思い出すのが、「ソース焼きそば」。
当時東横線の某駅でアパート暮らしだったんですが、駅前の中華屋でこればっかり食べてました。
ホントは「チャーハン」とか食べたかったんですが、これを言うのがかなりの難度。
まあ、1〜2分もがくのを苦にしなければよかったんですが(笑)、そこまでして、という感じだったので、言いやすい「ソース焼きそば」にしてました。
おかげでその店のソース焼きそば、視覚的にも味覚的にもはっきり覚えてます。特においしくなかったんですが、あの味が忘れられない(笑)、ですね。

電話がかけられない(無言電話になってしまう)、とかに比べると、大したことないんですが、こういう大したことのないことがいっぱいあるというのもけっこうきついわけで…。言ってみればボディブローです。

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その6(視覚障害)

食事といえば、こんなことがありました。

ある日、全盲の友達と初めての店に入ることになりました。相手が盲界の人間だと、私がメニューを読まないといけません。
「メニューを読む」ということは、何があるか、ということはもちろん、「この店はどれぐらいの値段帯か」というのを伝えるという役目もあります。
手持ちのメニューがあるときは、日本語で書いてある限り、読むのに苦労はほとんどありません。問題は壁にしかメニューがないとき。その店も壁にメニューがあった。それもカウンターの奥のホワイトボードに書いてあるではありませんか。

カウンターに座るんじゃなかった、と後悔におそわれました。
前にすし屋でカウンターに座ってしまって、大将の前で隣の子に値段を伝えるのに苦労した思い出があります。どうやって伝えたらええか…、と思っていたら、私がそのメニューが読めないではないですか。とたんに冷や汗が…。

かろうじて読める部分を見る。出し巻き、漬物、サラダ…。ちょっと高そうな雰囲気です。飲み物が来たからとりあえず何か言わなければ。店の人はじっと見ている。
とりあえず3桁の数字(1000円以下)らしい中からサラダとキムチを頼む。その量を見て考えよう。少なくて高かったら、下手に「おすすめは?」とは聞けない。だからと言っていちいち全部「それなんぼ?」と聞くのも恥ずかしいし。

でも、となりの全盲の子は、私が慌てているのがわからないのです。私は見えているものだと思って、待っている感じです。これはどう言うたらええかな、と考え出したら食べている気がしません。
結局サラダとキムチだけ食べて、その店を逃げ出しました。その後、腹が減るのでメシ屋に入って私はうどんを食べ、その子は玉丼を食べました。何かほっとしました。

「中途半端」な貧乏人は悲しい…。

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その7(上肢障害)

のんべえですから、宴会は大好きなんですが、忘年会や新年会のシーズンになると憂鬱になるんです。
冬場の定番宴会メニューで苦手なものがあるからなんです。
それは鍋料理です。特にカニすきなんてもう最悪です。
片手が不自由な人は誰しもそう思ったことがあるでしょう。

というのは、鍋から自分の器に料理を取るのに非常に難渋するからです。
片手に箸を持ってしまえば、もう片方の手で器を持つことができませんからね。それに、鍋は机の上に載ったコンロがあり、そのまた上にありますから高低差が非常にある。

だから僕が鍋料理を食べると、机の上に鍋の汁が飛び散ってめちゃめちゃ下品な食べ方をしているように思われる。
いつもは、しゃもじですくうことが多いのですが、食い意地が張ってると言われたり、あまり知らない人の前でやると、周りが引いていくのを肌で感じることになります。

カニすきなんかは、ただでさえカニは片手で食べにくいのに、その上、鍋に入っている。あれを見ると「なんでこんなにめんどくさい食べ物をみんなありがたがって食べるのか?」と一人冷めてみてしまいます。

そしてその後に定番のように出てくる雑炊。これもくせ者です。
片手で茶碗を持てない者にとって、あれほど食いにくいものはない。気心が知れた人間ばかりの時はレンゲをもらうこともできるんですがね…。
その上、実は僕、極度の猫舌なんです。

職場の忘年会で、鍋の案が上がると、猫舌を理由に強硬に反対するのですが、「さまして食べればえええやん?」みんな不思議がっています。
片手が不自由な者にとって、鍋は和食の中で最悪の料理です。

その他、嫌いな料理を列挙すると、雑炊と同じ理由で丼物。ナイフとフォークを使って食べる西洋料理。
これが僕の嫌いな料理ベストスリーです。

そうそう、もうかなり前になるのですが強制的に参加させられたテーブルマナー教室で、講師に喧嘩を売ったことがあります。
ナイフとフォークは欧米に優れた文化だの云々と講釈をたれていた講師に「片手の不自由な欧米人は、どうやって食事をしているのか?」と嫌味たっぷりの質問して、答えられないのをそれ見たことかと、「欧米は福祉という文化も進んでいるらしいが、そんなことも答えられんで、欧米の文化云々なんて偉そうなことを言うな!」と言い放ってやりました。
今から思えば、これを逆手にとって受講料を返してもらえばよかった。
もちろん料理は全部食べましたよ。割箸で。


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