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何年障害者やっとる思とるねん?

鉄道警察隊を相手に一歩も引きませんでした!

先日、朝の通勤電車でドア付近に立っていたら、例のごとくいやな視線を感じた。相手を確認すると20代半ばの兄ちゃん。僕が兄ちゃんの方を見ると目をそらし、しばらくすると、またジロジロとこちらを見て笑みを浮かべる。

見た目で判る障害者は、見ず知らずの人間にまで人格を傷つけられる。僕は脳性麻痺を32年間やっているが、機能障害でできないつらさよりも、遙かにこのつらさの方がつらい。もっと重度でもいいから見た目で判らない障害の方がましや。と思ったことも何度もある。(見た目で判らない障害で悩んでいる方には申し訳ないけど、実際にこういう場面では、反射的にそういう思いが働いてしまう。)

次の駅まで苦痛の13分。最近刺激に飢えていたせいか?おおかた次の停車駅にさしかかった頃、たまりかねて兄ちゃんの肩を軽く突き「何をジロジロ見とんじゃ!」と声を荒げてしまった。駅に着いて降りると、後ろで「人を殴りやがって謝らんかぇ!」という声が聞こえた。振り返って言い返すと「警察に行くぞ!」と言う。

(警察?この兄ちゃんアホか?この程度のことで暴行事件になるわけないやんか?万一の時は障害を全面に出して電車が揺れたからよろめいたと言い張ったらええわ。このまま野放しにしたらこの兄ちゃん反省しよらんな。俺の屁理屈が警察でどれぐらい通用するかも面白い!)と直感的に思ったのも最近刺激に飢えていたのでしょうか?(笑)

「行こか!」と言うと、「おっさん、障害者やから謝ったら許したる!」と火に油を注ぐ。「謝る気さらさらないから警察行こか!」と兄ちゃんの胸ぐらをひっつかんで駅の鉄道警察隊まで兄ちゃんを連れて行って差し上げた。親切でしょう?
しばらく入口のカウンター越しに兄ちゃんが状況説明をしている横で、もう一人の警官に名前と住所の後に「職業は?」と聞かれた。兄ちゃんに勤務先がバレると形勢が不利になると思ってしばらく黙っていた。するとメモ用紙に「無職」と書かれてしまった。(これは虚偽の申告ではないですよ。答えなかったら勝手に警官がそう思い込んだだけですから…)
いずれにせよ、勤務先が兄ちゃんにバレなかったことはラッキーだった。これで、かなり有利な戦闘条件が整った。

その警官が兄ちゃんの方へ寄って行って小声で話していた。「昔は殴った方が悪かったけど、最近の障害者は権利意識が強いから…」とか「やくざに殴られたら一発○○万円が相場やけど無職やから…」という声が漏れ聞こえてきた。
カチンときた。この警官とは徹底交戦や!
そろそろ僕の憂さ晴らしでも始めようかと、
「何が障害者の権利意識が強いじゃ!笑わすな!肩にちょっと触ったぐらいで警察じゃ、暴行じゃ言う方が異常な権利意識とちゃうんか!さんざん障害者を侮辱したくせに!」
「障害者を見てヘラヘラ笑う方がよっぽど悪質じゃ!なんか勘違いして被害者面してへんか?」
「そんなに面白いんやったら、お前も障害者にしたろか!毎日、鏡で自分の顔みて笑えるからこんな楽しいことはないやろ!」
と、僕がいつも軽度障害MLで言っているセリフのオンパレードだった。
兄ちゃんが「障害者は何をしても許されるんか!」とこれも健常者がよく言う決まり文句を言うので、「障害者はいつも泣き寝入りせなあかんのか!暴行で訴えるんやったら、こっちも名誉毀損で訴えたる!だいたい俺一人でお前みたいなアホをこれまで何人相手しとる思とるねん、もうええ加減にしてくれ!」と言うと、兄ちゃんは黙ってしまった。

次は僕に説教を始めたあの勘違い警官を迎撃。
「そんなことでいちいち怒っとったらあかんやないか。何があっても手を出したらあかん。傷害事件になるぞ。つらいことはいっぱいあるやろけど、みんな仲良く付き合わなあかん。」
思わず「こいつアホか?」と笑いそうになった。僕は、カウンター前のベンチにふんぞり返って、タバコを片手に、
「障害者は自尊心を持つないうことか!」
「諸悪の根元は相手が俺を笑ったことちゃうんかぇ!そのことはどうなるねん?そんな奴と仲良くなんかできるかぇ!」
「思い詰めて自殺でもしたろか?警察の仕事がまた増えるぞ!相手を小突いて警察に連れてきたんや!事件を未然に防いだんやから、感謝されても、そんなこと言われるのは筋違いちゃうか!」
「そんな説教聞き飽きたわ。何年障害者やっとる思とるねん?その程度の一般論的な説教やったら小中学校の教師でもするぞ!わざわざ警察まで来たんやから、警官らしいもっと実践的な説教してくれや!」
警官は不機嫌になって「俺はアホやから、一般論的な説教しかようせんわ!」と捨てゼリフを吐いて、兄ちゃんを連れて別室へ調書作成?に行った。

しばらくすると、温厚そうな別の警官が来て「簡単な調書を作ります」と言って、事務室の片隅の机で再度説明を求められた。相手の兄ちゃんは被害届を出さないとのこと。そこで初めて勤務先を言った。案の定「ええ年した社会人なら軽率な行動は…」と説教が始まった。
「俺は社会人である前に障害者なんですよ!だから見ず知らずの人間に障害者という理由だけで侮辱されるのは、これまで苦労して生きてきた人生を否定されたに等しい。もし、あのまま出勤していたら、腹が立って仕事どころではなかった。小突くことによって、警察へ来て言いたいことを言うことはあの場では妥当な手段だと思います。もし、あの場で相手に罵声を浴びせても、相手は聞く耳を持たなかったでしょうからね。この方法以外に何かいい方法がありますか?」
警官は「今度そんなことあったら、手を出さずに警察に連れてくるか、駅員に警察を呼んでもらいなさい。」と言う。
僕は「そんなん無理じゃ」と鼻で笑った。
調書の最後に「私は相手を突き飛ばしたことを反省しています。」という文言が書かれていた。
「俺、反省してませんよ!そんなウソ書いていいんですか?」と言うと、警官は「そう書いとくもんや!何があっても暴力はあかん。ましてええ年した社会人やからな!」とまるで九官鳥のように同じセリフの連発。
最後に「まあ、もっといい方法を思いついたら教えて〜なぁ。」と言って警察を出てきた。

障害をからかわれて、こんなスッキリした結末になったのは初めてのこと。
「たまには相手を小突いて警察に行くのも悪くないなぁ…。」とアホなことを一瞬考えてしまった。
職場でも、相手が被害届を出さないことを伝えると、公式の場でのそれ以上のおとがめはなかった。
翌日、上司から夜のお誘いがあった。居酒屋で前日の警察での論争を上司と再度繰り広げて、少々悪酔いしてしまったのですが…。